日本の近時の「SNS規制」動向と主要論点

まとめ

・国内法適合性:日本の新制度は被害救済の強化という公益目的を持つとされます。

しかし、同様の目的で策定されたEUのDSA法等の運用において、有害でも違法でもない中核的な政治的発言を標的とし、「違法なヘイトスピーチ」と分類して検閲削除し、移民や環境といったテーマに関する議論を封じ込めるために利用されたことが米国議会報告で明らかにされています。実際に、日本国内でも、従軍慰安婦捏造問題やクルド人など不法移民問題などに対する投稿が「ヘイトスピーチ」として大量に削除され、正当な議論すらできない状態でした。このように、過度な萎縮や準検閲化を招く可能性が大きく、憲法21条に抵触する可能性が高いと考えます。少なくとも、削除基準の明確化/異議申立て・説明責任の制度化/司法審査へのアクセス性の担保が必要です。

・対外関係:米議会報告は越境的な“官製削除”への警戒を明確化しています。

EU向け圧力(関税・制裁検討)が先行しており、同種設計が拡大すると、日本も政治・通商の俎上に載るリスク(レピュテーション・投資環境含む)があります。

 

 

1).憲法・国内法に照らして

1) 日本国憲法・国内法に照らした論点

・憲法21条は「表現の自由」を保障し、「検閲の禁止」「通信の秘密」を定めます(政府公式英訳)。運用では事前差止め(発信前の抑止)は原則不許可で、例外は極めて限定(北方ジャーナル最判1986.6.11の枠組み)。過度な事前的・包括的な抑制は違憲リスクを孕みます。  

・2025年4月施行の「情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法の大改正)」の下で、総務省はYouTube/X/Instagram等を提供する5社等を「大規模特定電気通信役務提供者」に指定。誹謗中傷等への迅速対応の義務化や運用状況の透明化等が課されました(指定サービスは列挙方式)。制度趣旨は被害救済の強化ですが、

 (a) 広範・不明確な削除基準 → 過剰削除(過剰な自己検閲)、

 (b) 私人(プラットフォーム)への実質的な検閲的役割の委任、

 (c) 異議申立て・司法審査のアクセス性

など、運用次第で21条や手続的適正の観点から懸念が生じ得ます。  

・2025年6月には「災害時の誤情報対策」として収益化の一時停止(モネタイズ停止)を自主規範で促す報告が示され、年内に業界コード作成を求める動き。目的は理解できる一方、収益インセンティブ停止が特定言論への経済的圧迫として機能する場合には、比例原則や過度の萎縮の観点が問題になります。  

2).米議会レポートとの関連

2) 米国連邦議会(下院共和党スタッフ)レポートの要旨と照合

・米下院司法委員会・共和党スタッフの中間報告

(2025/7『The Foreign Censorship Threat』)は、EUのDSAが当局の「違法/有害」判定を梃に広域的な削除圧力を生み、米国内の表現にも波及しうる、と批判。とくに政治的言論や米企業への負担を問題視します。  

 ・同趣旨の証言資料でも、24時間対応義務、当局通報、リスク評価義務などが「実質的な検閲誘発」になり得ると指摘しています。

・中間報告の要旨

 外国による検閲の脅威:

欧州連合のデジタルサービス法(DSA)がいかにして世界的な検閲を強制し、アメリカの言論の自由を侵害しているか。

 1.投稿コンテンツに対する監視ルールの変更を要求

欧州委員会の規制当局がプラットフォームに対し、「DSAの義務を遵守する」ために全世界の利用規約(グローバルなコンテンツ・モデレーション・ポリシー)を変更するよう求めていた事実を、委員会が入手した非公開資料で確認した。

 2.ユーモアや風刺を含む政治的発言の検閲への利用

欧州の検閲当局が、「有害でも違法でもない中核的な政治的発言」を標的とし、移民や環境といったテーマに関する議論を封じ込めようとしていたことを、召喚状に基づき提出された文書で確認した。

 3.ソーシャルメディア・プラットフォームによる検閲の実施

例えば、「私たちは祖国を取り戻さなければならない」というありふれた平凡な政治的発言を「違法なヘイトスピーチ」と分類し、プラットフォームがDSAに基づき検閲する必要があると指示していた事実を確認した。

 4.検閲による思想統制を実施

検閲は大部分が一方的であり、ほぼ一様に政治的保守派を標的に検閲していた事実を確認した。

 

DSA = DIGITAL SERVICES ACT

・日本の「情プラ法」とDSAの類似性と関連

日本の「情プラ法」はEUの包括規制ほど広範ではないものの、迅速削除義務+大規模指定+透明化義務は、「削除の迅速化を強く促す制度設計」という点で、同レポートが批判する“官製の削除圧”の論理と接点があります。米議会の問題意識に照らせば、過剰な削除誘導や基準の不明確性が拡大すると、対米摩擦(検閲的規制としての批判)が高まる可能性は否定できません。これは日本の制度にも矛先が及ぶ合理的懸念といえます。  


3).米政権の通商措置と連関

3) 米政権の通商措置との連関可能性(EU・日本への波及)

・2025年夏以降、米政権(トランプ政権)はEUのDSA等「差別的なデジタル規制」を名指しで非難し、追加関税の可能性やEU当局者制裁の検討が報じられています。これは米プラットフォームや米国民の言論が不当に抑圧されるとのロジックに基づきます。

・現時点で「日本のSNS規制をやめさせるために米が日本へ高関税を科す」との確定的政策は確認できません。ただし、“差別的なデジタル・ルール”一般に対する関税圧力というフレーミングは既に用いられており、日本の運用が“事実上の検閲”と受け止められ米国企業に不利益を与えると評価されれば、**通商論点化(関税・制裁カードの示唆)**は十分あり得ます。

4).カナダへの米国制裁の意味

4) カナダ事例と米加関係の示唆

・カナダは**オンラインニュース法(C-18)**を施行し、巨大プラットフォームに報道機関との交渉・拠出を求める一方、**オンラインハーム法案(C-63)**では強い批判(表現への過干渉懸念)も受けてきました。  

・2025年にはデジタル課税等を巡って米政権が対加通商交渉の停止を宣言するなど、デジタル政策が通商摩擦に直結しています。