1.憲法的基盤と放送制度の現状

1-1 言論・報道の自由の憲法的位置づけ

まず、我が国における「言論の自由」「報道の自由」は、日本国憲法 第21条において保障されています:

「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」および「検閲は、これをしてはならない。」など。  

 この保障により、報道機関やメディアを通じた情報の発信・受信が民主主義社会における基本的条件となっています。  

 言論・報道の自由は、単なる「好きなことを言える自由」ではなく、国民が適切な情報を得て、自己の判断・選択を行うための環境を担保するものです(「国民の知る権利」との整合性)。


1-2 放送制度・電波利用制度における特殊性

 次に、放送制度・電波利用制度には、一般の言論・出版にない「公共性」「媒介性」「電波という有限資源」「免許制度・利用割り当て制度」などの特徴があります。

例えば、我が国の 放送法 (1950年制定)では、放送は公共の福祉を前提に「放送番組の独立」「公平・中立」などの原則を置いています。  

また、電波利用権・免許という形で、政府(具体的には 総務省 等)が許認可・監督を行う制度が設けられています。これによって、言論・報道の分野であっても、完全に「何でも自由に発信できる」わけではなく、制度的な枠組みの上での自由保障となっています。

 この点から、請願書で指摘の「電波利用権」「全国放送参入」「新規参入の排除」などの制度改変提案も、放送制度の根幹に関わる議論として非常に妥当と言えます。

 


1-3 現状の課題と制度的歪み

(A)メディア集中・クロスオーナーシップ

 欧米諸国では、新聞・放送等複数メディアを同一資本が所有する「クロスオーナーシップ」を制限することで、メディア多元性・競争性を確保しています。一方、我が国では新聞資本が放送局に参画・影響を及ぼす体制が批判されており、メディアの多様性・独立性が担保されにくいという指摘があります。請願書が指摘する「在京キー局システムによる寡占」「新規参入排除」の問題は、この構図と深く結びついています。

(B)「報道しない自由」による知る権利侵害の可能性

 請願書が言う「報道しない自由」とは、報道機関が故意に重要情報を報じず、視聴者・国民から「知る権利」を奪う可能性を指摘しています。これは、メディアの影響力と参入構造が歪んだ時、検証されない報道、不作為の報道、均質化した報道が起こりうるという制度的リスクを示しています。

(C)監督・規制・罰則制度の未整備

 現在の放送法制度には、報道機関が番組内容で重大な虚偽を報じた場合の罰則や、参入・競争を促すオークション制度・電波利用料の市場化といった制度革新が十分になされていないという指摘があります。たとえば、放送法第4条は「放送をしてはならない事項」(政治的公平・事実の歪曲禁止等)を定めていますが、強制罰則の運用や新規参入促進措置には限界があります。  

(D)監督主体の独立性・第三者性の問題

 報道の自由・独立性を確保するには、政府・行政以外の第三者的な監督機関が機能すべきですが、我が国では放送法上、監督機関の独立性に関して国際的にも懸念があり、例えば国連人権専門家も「政府が放送局の業務停止を行う可能性」が残されていると指摘しています。  

(E)外国メディア・第三国影響の監視・制度化の未整備

 請願書が指摘する「第三国からのメディア操作」や「領土的野心を持つ第三国の影響下にある法人の参入制限」といった論点は、グローバル化・デジタル化に伴い重大性を増していますが、現行制度では電波・放送・報道分野で明確にこの点を法律上制度化した枠組み・罰則・審査手続きが十分ではないと考えられます。

(F)報道インフラ・ネットメディアの拡大と法整備の遅れ

 インターネット・デジタルメディアの台頭により「テレビ地上波・ラジオ・新聞」という従来型メディア中心の制度設計では十分に対応できなくなっており、請願書の言及する「情報インフラ」「SNS事業者に電話・電信並みのサービス義務を課す」といった制度的視座は、先端的な改革提案として意味があります。

 

 このように、現行制度には「言論・報道の自由を前提としながらも、公共性・監督制度・競争促進・多元化・外国影響排除」という観点で改善余地が多いという状況があります。