日本の安全保障と台湾有事

存立危機事態・日米同盟・戦略的意思表示の全体像

台湾をめぐる安全保障環境は、ここ数年で劇的に変化しました。

中国の軍事力増強、台湾周辺での挑発行動、南シナ海での圧力、そして米国の政権移行による不確実性。

こうした要因が重なり、台湾有事のリスクは現実味を帯びつつあります。

 

しかし、議論の多くは「集団的自衛権」「存立危機事態」「台湾防衛」「邦人保護」などが混同され、

本質的な法制度の理解や、日米同盟の構造が十分に説明されていません。

 

本ページでは、防衛大学の倉石治一郎元准教授(元陸上自衛隊1等陸佐)のご指摘を踏まえ、

台湾有事をめぐる法制度、日米同盟、軍事バランス、情報戦の全体像 をわかりやすく整理します。

 

特に重要なのは、

日本が米軍・同志国の行動を“戦略的に確保する必要性 です。

この視点が抜け落ちると、日本の安全保障政策を正確に理解することはできません。

 

図解とともに、できる限り平易にまとめました。

ぜひ最後までご覧いただき、台湾と日本の未来を左右する重要な論点を押さえてください。

【第1章】台湾有事を理解するための3つの視点

台湾有事を語る際には、まず「3つの異なるレイヤー」を整理する必要があります。

この3つが混同されると、議論が混乱し、誤解が生じます。

 

(1)集団的自衛権

(2)個別的自衛権

(3)台湾を日本が直接防衛する問題

以上の三つです。

 

集団的自衛権は、日本が攻撃されていなくても、密接な関係にある他国(米軍・同志国)が武力攻撃を受けた場合に、それらを守るために武力を行使する枠組みです。

 

個別的自衛権は、日本自身が攻撃を受けた場合、あるいは邦人の生命が危険に晒された場合に発動されます。これは武力攻撃予測事態や武力攻撃事態として扱われます。

 

台湾を日本が直接防衛する問題は、現行憲法や国内法、政治状況から考えて、極めて高いハードルを持つ領域です。

 

この「三階建て構造」を理解することが、台湾有事の議論の出発点となります。

※ 右図は産経新聞より引用


【第2章】存立危機事態の本質── 米軍・同志国の行動が前提となる理由

「台湾侵攻=存立危機事態」という誤解が広がりがちですが、これは正しくありません。

存立危機事態は 台湾そのものを守る制度ではなく、台湾を防衛する米軍や同志国を守る制度 です。

 

この制度は、密接な関係にある他国への武力攻撃が前提です。ここでの「他国」とは台湾ではなく、米軍・同志国を指します。

 

したがって、米軍や同志国が台湾防衛のために軍事行動を起こさなければ、日本は存立危機事態に該当しません

 

つまり、

 米軍等が台湾防衛に動く
  → それらが攻撃される
   → 日本がそれを防護する

という三段構造が成立して初めて、存立危機事態が認定され得るのです。

 

高市発言の本質は「台湾を守る」ではなく、「台湾を守る米軍等を日本が守る意思を示した」という点にあります。

 

※ 右は 2025年11月14日配信のTBS News


【第3章】高市発言の意味── 日本は何を守る意思を示したのか

国会での高市発言をめぐっては、「台湾有事に日本が直接関与するのか」という誤解が多く見られます。しかし、高市氏が述べた内容は、あくまで「集団的自衛権」の範囲です。

 

つまり、「米軍・同志国が台湾防衛に動くのであれば、日本はその米軍等を守るために行動する意思がある」というものです。

 

これは台湾そのものを自衛隊が防衛するという趣旨ではありません。

 

立憲民主党の岡田議員の質問も、実質的には「日本が集団的自衛権を行使する覚悟があるのか」を問うものです。

 

日本が米軍等を防護する姿勢を示すことは、米軍が台湾を見捨てないための重要な要素であり、日本自身の安全保障に直結します。

※ 右は 2025年11月23日配信のTBS News


【第4章】台湾有事が日本にもたらす現実的危機

台湾周辺には多くの邦人が居住しており、戦域化すれば退避は極めて困難になります。

また、台北を中心とした約800km圏は、与那国島から沖縄本島、九州南端までを含みます。

 

この結果、台湾有事は日本にとって「武力攻撃予測事態」「武力攻撃事態」として、個別的自衛権の発動対象となります

 

南西諸島の基地、海空交通、シーレーンは直接影響を受け、日本のエネルギー供給にも重大な影響が及びます。

 

一方で、日本が台湾を直接防衛することは、現行法制下ではほぼ不可能です。そのため、日本は米軍・同志国の台湾防衛行動を前提に、それらを守ることで結果的に台湾防衛に関与し、自国を守るという構造を選ぶことになります。


※ 右図は産経新聞より引用


【第5章】中国の離間工作と国際社会の反応

中国は、米軍単体や自衛隊単体よりも、「日米同盟が一体となること」を最も恐れています。そのため、日米間の分断を狙った情報戦・認知戦を活発に展開しています。

 

具体的には、

 

・「集団的自衛権は違憲」とする国内世論の誘導

・メディアを通じた論点ずらし

・SNSでの偽情報

・国際社会へのプロパガンダ

 

などが挙げられます。

 

しかし今回、高市発言に対して中国が過剰に反応した結果、欧州やASEANは逆に警戒を強め、日本への支持を示しました。

ウクライナ戦争以降、「力による現状変更」に対する拒否感が国際的に広がっているためです。

 

恫喝はむしろ逆効果となり、中国は国際社会の中で孤立を深めています。

 

※ 右は2025年12月1日放送のテレビ朝日 News


【第6章】米軍の関与を“日本が確保する”という視点── 存立危機事態発言の戦略的意味

台湾有事において最も深刻な問題は、

「米軍が本当に台湾防衛に関与するのか」という点が揺らいでいることです。

 

これまで、米軍が動くことは当然視されてきましたが、バイデン政権の不安定性や、トランプ政権以降の不確実性により、この前提が弱まりつつあります。

 

存立危機事態は、米軍等が攻撃を受けたときに、日本がそれを防護する制度です。

つまり、米軍が動かなければ、日本は存立危機事態の根拠そのものを失います。

 

このため、日本が

「米軍が動くなら日本は防護する」という明確な意思表示を行うことは、米軍を台湾有事に引き寄せるための戦略的シグナルとなります。

 

これは日本にとって極めて合理的な判断であり、台湾防衛と日本の安全保障を両立させる唯一の現実的アプローチと言えます。

 

防衛大学の倉石治一郎元教授は、この状況を次のように総括しています。

「中国は訳もわからず恫喝し、かえって国際社会を日本側に結束させ、裏目に出た。相当焦っているはずだ。」

 

米軍関与の確保と、日米同盟の強化こそが、台湾有事の抑止に直結します

 

※ X(Twitter)より引用
 ただし、日本が単独で台湾を軍事的に支援することは出来ません。