· 

世界主要国の 監視機構と罰則抜粋25

25.アイルランド

 

1.報道内容に対する監視機構と罰則規定等について

 報道内容に関する規定の概要は2009年改正放送法(Theprovision of the Broadcasting Act 2009(as amended))に定められている。放送事業者は放送免許授与の際にアイルランド放送庁(The Broadcasting Authority of Ireland BAI) との商業放送・地域コミュニティー放送その他様々な種類の放送契約を行うが、アイルランド放送庁(BAI) は放送契約に基づきコンプライアンス委員会によって検討される。この基準となるものは、2009年改正放送法を元にアイルランド放送庁(BAI) により定められた放送に関する様々なコードであり、放送事業者は放送の内容や目的、対象年齢等によりそれらのコードを遵守する必要がある。以下にそれらコードの詳細を示す。

 

・一般商用放送コード(General Commacial Communications Code)

 商法放送の様々な事項に対する一般的な定義や原則と、禁止事項、広告の概要、テレビスポンサ一、特定の製品及びサービスの禁止等の、放送コードの定義と要件及びその目的等が定められている。具体的には、原則として商業放送は真実性及び社会的責任と公共の利益を重視し、アイルランド及びヨーロッパの法律・規則慣習法等を遵守する必要があり、人間の尊厳を守り有害な行動を煽ることや様々な差別、暴力、性的行為、攻撃性、健康に有害な内容等の禁止放送の透明性の確保等が必要である。

 広告等に関しては、テレショップも含め節度を保ち行う事と、年齢層に合わせ過剰な煽情性を持つ広告の制限や子供の保護を目的とした広告内容の制限等があり、原則として電子煙草を含む煙草や違法薬物及び医薬品、宗教の広告等が禁止されている。

 また、広告は放送プログラムから容易に識別可能でなければならないほか、放送プログラムより音量を大きくすることが禁止されており、更に画面分割広告の制限等が定められている。また、スポンサー企業は放送コンテンツに影響を与えてはならないほか、スポンサーシップについても細かい制限が定められている。

 アルコールに関しては非常に細かい規定があり、アルコールやその摂取に関し基本的に肯定的に描いてはならないほか、アルコール濃度1.2%を超える飲料ではそれが健康に有益であることを強調してはならず、アルコール濃度25%以上のすべてのアルコール含有飲料は許可されない。更に、子供番組ではアルコールは禁止であり、午前6時~10時まではそれらを含む番組は放送できないほか、アルコールの広告が可能な時間帯であっても、広告全体の25%を超えてはならない等の規定がある。

 医薬品や医療機器及び電子煙草に関しては、処方箋薬や規制薬物、向精神薬等についての広告は全面的に禁止されており、それ以外の医薬品に関しても管轄当局により登録及び承認されているものに限られるほか、電子煙草及び交換カートリッジは、Directive 2001/83/ECに基づく医薬品、或いはDirective 93/42/EECに基づく医療機器の対象となる場合は規制を受ける。更に、医薬品の広告では使用の合理性と客観性が重視され、誤解を招く恐れのある表現や過度の使用の奨励、誤った自己診断につながる恐れのあるもの、効能の過度な表現等は禁止であり、医薬品の広告では、それが医薬品の広告であることが明白に識別できる必要があり、それぞれの広告に関して明確な識別性の確保は、化粧品や美容についての広告に於いても同様である。

 食品に関しては、科学的データ等から事離した過度の健康強調表示や、虚偽及び暖昧な表現、誤解を招く恐れがあるもの、過剰な摂取の奨励等は禁止され、国民の多様で、バランスの取れた食事と健康的な生活のための有益な情報の提供が必要である。なお、英国食品規格庁により定められる高脂肪・高塩分・高糖分食品(High Fat Sa1t Sugar HFSS)の広告に関しては、アルコール同様に広告全体の25%を超えてはならないほか、更に乳幼児の粉ミルクや子供向け広告には別の規定が存在する。

 金融商品の広告に関しても、誇張や誤解を招かない配慮が必要なほか、公営賭博等については、国営の宝籤(宝くじ)やチャリティービンゴ等の政府により許可されたものについては許可されるが、他の宝籤(宝くじ)については別途設けられた規則に従う必要があるほか、賭博に関する肯定的な描写は禁止されており、更に子供を対象としたプログラムでは賭博描写が禁止されている。

 

・ニュースや時事問題における公平性・客観性の規範(Codeof Fairness, Objectivity & Impartiality in News and Current Mfars)

 市民の利益の確保を目的とし、ニュース及び時事問題はすべての利害関係に対し公正で、客観的かっ公平な方法で提示されること、及び放送者自身の見解を表明しないことが放送法第42条に定められているが、公平性・客観性の規範は特にニュースと時事問題に特化した規範で、それらの守るべき基準を明確にすると共に同第25条の目的を考慮し、憲法にある民主的価値と正当な表現の自由の維持と、公平で独立したジャーナリズムの維持を求めている。それぞれの項目についても詳細に定められており、例えば公平性について、インタビューの際には様々な人に対し公平に情報を集めると共に、社会的に脆弱な人々に対するインタビュー等で不公平にならないような配慮が必要なほか、不公平になる素材を避ける必要性まで明記されている。さらに、本来の文脈や意味を歪めるような恋意的な編集の禁止や言葉の抑揚等による誘導等の禁止も盛り込まれている。これら、情報に対する公平性や客観性、正確さ、透明性及び説明責任と共に、プライパシーの保護や不正確な情報提供に対し可能な限りの訂正放送報道を行う必要が定められている

 

・プログラム基準(Codeof Programme Standards)

 プログラム基準の主な目的は、放送コード(BroadcastingeCode)を定めると共に、放送における責任の所在を明確にすることであり、これらについても公平性・客観性の規範と同様に同第42条を根拠としている。編集の独立性と自由を確保しながらも、情報の客観性や公平さだけではなく、犯罪の促進や扇動、国の権威の弱体化、広く視聴者に対する有害な情報、暴力や性的行為等、18歳未満の未成年の身体、精神、道徳、等に対する有害な情報の禁止や制限、広告に対する基準や制限等と、制限が必要なプログラムの放送に際し視聴者に対する事前警告の表示を行うことや、文化の多様性の確保とそれらに対する配慮を行うこと社会や集団に対する差別や扇動の禁止、人種、国籍、民族、宗教等の様々な差別の禁止プライバシーの保護等の視聴者保護、番組に対する苦情及び放送事業者の苦情に対する行動規範等も含まれ、これらは広く放送プログラム全体が対象となる。

 なお、これらの規範は、2009年改正放送法及び欧州視聴覚メディアサービス指令(AVMSD) に基づき設定されている。

 

・児童商業放送コード(Children's Commercial Communications Code)

 児童商業放送コードは、不適切或いは有害な商業放送から18歳未満の子供を守り、子供の高い感受性を商業放送が利用しないようにすることを目的とし、放送業者及び広告主と保護者や子供との聞の商業放送に対する明確な基準を提示している。子供の発達段階により異なるレベルの保護が必要となるため、児童商業放送コードの規定は、年齢別に6歳未満(U6)、13歳未満(U13)、15歳未満(U15)、及び18歳未満(U18) の4段階に分けられている。子供向けプログラムは、プログラム自体がそれぞれに想定される年齢層向けに作らたものであるか、実際の視聴層がそれらの年齢層で50%を超えているプログラムであり、それぞれ年齢別に放送時間、プログラムの種類及び性質、放送の社会的価値、道徳的規範等の基準が明確に定められている。

 U18では、反社会的行動、特にいじめや罵倒、虐待等の奨励、教育の蔑視、侵略行為の肯定が禁止され、原則として暴力や子供に苦痛を与えるシーンの禁止人間の尊厳を尊重し、あらゆる差別を禁止すると共に平等の原則を尊重することと、子供を欺くような表現及び信頼を乱す行為、知識不足を悪用する行為を禁止し、広告等の商売行為に於いては、製品及びサービスについてのものは通常料金で使用できるものと追加料金が必要なものを明確に区別することが必要であり、製品等の購入を促すために商品や何らかの報酬を無償の贈り物として提示することを禁止している。また、商品やサービスの所有が身体的・社会的・心理的に優位に立てるようなことを意味する表現や、逆にそれを保有しない場合に劣等感や侮辱・軽蔑するようなことを意味する表現は禁止されているほか、それに付随して所有が子供の人気や友人獲得、或い未所有によりそれらを損ねることが無いように特に配慮する必要がある。また、子供に対し大人に購入を奨励するような内容であってはならない。

 生活面に於いては、不健康な生活習慣や不健康な食事及び飲酒の奨励の禁止と、バランスのとれた食事の奨励及び栄養に関する誤解を招く恐れのある表現の禁止、及びHFSS(高脂肪・糖分・塩分 High in Fat, Sugar or Salt )食品促進の禁止、砂糖・蜂蜜を含む菓子類及び炭酸飲料等ではこれらが歯にダメージを与える可能性があるとのメッセージを伝える必要がある。また、安全ではない場所への立ち入りや知らない人と出会う事等の奨励を禁止し、スポーツ等に於いても大人の監督が必要なものは監督及び適切な安全装置を使用すること、マッチやガスその他危険を伴う特定の家庭用品については、適切な大人の監督の元に使用する必要がある。

 なお、広告はプログラムと明確に区別できる必要があり、クリスマス向け広告は11月1日以前に放送することを禁止している。

 U15では前記U18の内容に、商品・サービスにおいて説明文等は十分に単純で容易に意味が読み取れる状態である必要があり、且つ説明文等は十分な時間表示する必要があり、混乱させる可能性のある特殊効果や不必要に想像力を掻き立てる表現及び本来の機能以上の能力があるように見せかける行為の禁止教育運動や公衆衛生以外の目的での有名人やスポーツ選手の描写が禁止されている。更に、製品に電池、或いは組み立てが必要な場合はそれを明示する事等が必要となるほか、料金等は識別しやすい文字で、はっきりと表示し、必要に応じて音声による読み上げを行こと等が加わる。

 U13では前記U15の内容に、HFSS(高脂肪・糖分・塩分 High in Fat, Sugar or Salt )食品について健康及び栄養補給を明示しないこと等が加わる。

 U6では、前記U13の内容に加え、該当する年齢の子供が理解できるように音声による説明を必要としている。

 

 一般商用放送コード(GeneralCommacial Communications Code)の詳細については以下のリンクからダウンロード可能

 http://www.bai.ie/en/download/131870/

 

 ニュースや時事問題における公平性・客観性の規範(Codeof Fairness,O bjectivity & Impartiality in News and Current Mfars)の詳細については以下のリンクからダウンロード可能

 http://www.bai.ie/en/download/129469/

 

 プログラム基準のコード(CodeofProgramme Standards)の詳細については以下のリンクからダウンロード可能

 http://www.bai.ie/en/download/128555/

 

 児童商業放送コード(Children'sCommercial Communications Code) の詳細については以下のリンクからダウンロード可能

 http://www.bai.ie/en/download/129469/

  

 

2. 監査機関と管理体制について

・通信・気象・環境省(Department of Communications,Climate Action & Environment DCCAE)

通信・放送・郵便・エネルギー・天然資源・気候変動や公害等の環境政策を司る政府機関。放送に関する法律及び規制の枠組み、通信及び放送・メディア振興のための政策策定、(視聴者に対する)TVライセンス料の徴収等を行う。

・アイルランド放送庁(BAI)

放送サービスのコンテンツ内容の規制や、放送免許等の管理と、放送コード及びルールの策定、(放送免許授与の際に放送事業者と交わした)放送契約の遵守の監視を行う政府機関。アイルランド文化に関連した番組制作の支援や、視聴者からの放送に対する苦情処理や消費者保護等も行っている。

・通信規制委員会(ComReg)

電気通信・無線通信・放送及び郵便の管理と規制を行うほか、放送免許等の新規策定やライセンス条件の監視等を行う。アイルランド放送庁(BAI) の策定した放送コードに従い、放送内容の監視を行っている。

・競争消費者保護委員会(CCPC)

競争法に基づき、消費者保護全般と公正な競争に関する監視及び規制を行う。企業の合併・買収等の評価も行っている。

 

・欧州経済地域(European  Economic Area EEA) 協定の放送指令に基づく規制

EU加盟28ヶ国及びスイスを除く欧州自由貿易連合(European Free Trade Association EFTA) 加盟国は、放送事業者も放送・視聴覚サービス法第2条9の規定により欧州経済地域(EEA) 協定の放送指令に基づく規制を遵守する義務を有する。欧州経済地域(EEA) による規制は、国内法や国内規制等により妨げられない。

 

 参考資料:アイルランド 通信レポート(総務省)

 http://www.soumu.go.jp/g-ict/country/ireland/pdf/353.pdf

 

(※リンク先が調査時(2017~2018年)から変更になっている場合は、各機関のHPルートに接続します)

世界主要国の公共放送を中心とした監視機構と罰則抜粋 26